ナショナル【EA-750】レストア記録
昭和30年代のラジオを代表するような、ナショナルの高級ラジオです。
黒のルーバーが多用された時代のようですね。
割と丈夫な素材のプラなので、透明プラとは違って劣化している物は殆ど無し!
現在透明なプラスチックと言えば・・・固くて透明さが深い「アクリル」ですが・・
昭和30年代は主に「スチロール樹脂」が殆どで、熱にも強い日光にも薬剤にも弱く、
保存場所の違いがそのまま劣化状態に比例する様な素材です。
幸いこのラジオの個体は、意識的に淡く曇らせた「周波数目盛り部分」には大きな
傷もなければ、割れも全くありません。
下段のツマミ操作部分にも傷や割れがありません。
綺麗に水洗い後、ワックスで内外を磨きました。
ツマミの汚れは中性洗剤で綺麗に落ちました。メッキ部分も綺麗です。
パネル部品は全てオリジナルの構成です。
ネットでこのラジオは販売された当時の「製品説明書」を見つけましたので、
メーカーの【宣伝文句】をお楽しみくださいませ(^o^)
注)今回「7.」番目の「リモート」機能は、もう使用することが無いため、1ピン
だけ電源ケーブルの中継として使用している以外の配線は、全て外してあります。
実機の入手時の様子ですが・・・
長年の汚れやホコリが蓄積しておりました😅
古いラジオを直している方ならお分かり頂けると思いますが・・・
分解して掃除していると・・・Gの卵の殻、蜘蛛の屍骸、越冬する場所としてシャーシ
内を選んだ「カメムシ」・・・などなど「招かざる客」が出てきます💦
ですので、まずはシャーシやスピーカーなどを一旦全て取り外し、スピーカーは断線
していることも多いので、導通チェックしておきます。
エッジやコーンの劣化もチェックしておきます。
真空管も取り外し、水洗いしておきます。(防水構造なので大丈夫(^o^)v)
ただし印字印刷材料が水溶性の物もあるので、なるべく一本づつ洗いつつ、型番を記録
した紙や、小箱に置かないと「見た目」だけでは何の真空管???状態になるので注意
が必要です。(失敗経験者は語る(笑))
筐体(容れ物)には当時流行りの「合板、ベニア板」木材が多く、接着力も低下して
いるので「水洗い」は禁物❌ です。
下の写真はやはり当時流行りの「木目化粧薄板」で、経年に依る「湿、乾燥」の繰り
返しに依る「剥離」が目立ちます。(手を掛けた3台とも同じ)
ラジオを持ち上げようと、うっかり掴んだりすると「ベリ!」という音と共に剥がれ
「落ち」ます。
ここは静かに、丁寧に「広げて」「接着剤を塗り」「マスキングテープ」のような接着
力の弱いテープで押さえ、固まった後に剥がす際にも丁寧に行います。
全て接着剤が固まったら・・・同じ色合いの「ニス」を重ね塗りします。
ナショナルの電線は例外無く「経年劣化」しており、特に電球周りの配線はシャーシ内
の電線と被覆の材質が異なり、溶着した後、ボロボロに固着する危険な配線です。
全て取り払い、化学変化しにくい新しい電線と入れ替えます。
アウトプットトランスの「まがい物」が付いていた!
ナショナルのラジオのスピーカー用出力トランス(アウトプットトランス)は、断線
している場合が多く、また音が出ても「耐圧不良」と思える「チリチリ音」が出やすい
トランスが多いので、何よりも先に端子間の「導通:抵抗値」をチェックします。
ということで大きなスピーカーの横のトランスを見たら・・・・
「何という事でしょう!」
大きな「電源トランス(100V:11V)」が付いていました。
もちろん音は出たかも知れませんが、巻線比が大きく違うため、出力管に重い負荷が
加わります。作りが根本的に違うので「周波数特性」も著しく悪いはずです。
つまり、前の所有者さんが使用時に「オリジナルのトランスは既に断線」したという
事なのでしょう。
いずれにしても正式な新品の「アウトプットトランス」に交換です。
ロータリースイッチの接触不良!
メーカー問わず当時のロータリースイッチ(切り替えスイッチ)の電極部分は全て
「剥き出し」なので、酸化したり硫化したり、殆どが汚くなっていて接触不良が生じ
ています。
ここはラジオの「機能の中心地」なので、ラジオそのものは正常でも、接触不良により
「回すたびに聴こえたり聴こえなくなったり」する現象や、ツマミの回し方により
放送が大きく聴こえたり、逆に小さくなったり・・とにかく安定しないラジオになり
ます。
そこで、これはとても面倒で💦 間違いが許されない神経を使う作業なのですが、
一旦スイッチに繋がれている配線を全て取り外し(写真やスケッチ記録が必須!)
スイッチを取り出します。
その次に「スイッチを分解」し、接点を専用薬剤にて綺麗にします。
薬剤塗布したら数分放置し、綿棒や布で拭き取ると、びっくりするほど真っ黒な汚れ
が取れてきます。 スイッチの裏表、外した際の接点の位置などを記録しないと
組み立て不能になるので注意です💦
接点復活剤というスプレー式のものは、接点だけでなくスイッチ全体に塗布されて
しまうため、高圧が加わる接点には使用不可です。インピーダンスの高い回路の
接点だと「リーク」の問題も有るので、溶剤で溶かした後は「水洗い乾燥」が一番
安全で簡単な方法です。
もう一つ大事な点ですが・・・・
多い時間使用されてきたラジオは「接点が磨り減っている」可能性が高く、接触不良
の原因が「汚れ」ではなく、文字通り「接触していない」ほど削れている場合があると
いう事です。コレは多くの方が悩むところで、代わりのスイッチがあれば交換して問題
解決出来ますが、もう生産はされておらず、部品取りしたラジオの同部品では同じ様な
問題が生じ得ます。
私は思い切って「半田による接点盛り上げ」をしています。
綺麗にした後の接点は半田のノリが良く、熱の伝わりも良く艶のある新しい接触部分
が構成されます。(この方法で3台直しましたが、バッチリです。切替時に大きな
ノイズ発生していたラジオが大人しくなった例もあります。)
今回のラジオにも施しました。(切り替えるたびに短波が不安定でしたので。)
接点復活剤を塗布して回復させる・・そういう手段もありますが、根本的に「擦れて」
減っているはずなので、ここは新品と交換します。
ツマミが「ローレット」用なので、軸の先端だけはリサイクルします。
ジョイントは「秋葉原・門田無線」でネット購入した「6Φ用ジョイント金具」を使い
オリジナルの「M3ナベネジ」は頭がパネル穴に引っ掛からないように外し、代わりに
別途購入してある頭の無い「六角穴」の「通称:イモネジ」を使います。
きつく締め付けることが可能ですし、頭が邪魔になりません(^o^)
次々と古いコンデンサーを取り外し、更に耐圧の高いフィルムコンデンサーを使用。
小型になり中身はスッキリとしてきます。
写真右には「電源平滑回路基板」が見えます。複合型のブロックコンデンサーは撤去し
てあります。部品は電源だけに特化しています。最短で電源供給が出来るため、理想的
な引き回しが可能です。
(オリジナル設計の様に、ブロックコンデンサー内のコンデンサーを使用するがため
に、遠く離れた回路から長々と配線を引っ張ってくる必要がありません。)
調整やオシロスコープに依るチェック、半田付け変更などは下の写真の様に筐体から
取り外して、真空管を曲げたり配線を踏んだりしないように注意しながら行います。
一旦収納したあとでまた気になる点が出てきたら・・・ツマミを外し、シャーシ止め
ネジを外し、再びこの様な状態にしてから行います。(根気が要ります(^_^;))
「説明部品」は、全てオリジナルの状態からレストア時に改良したものです。
マジックアイは「暗め」です。
動作は正常に開閉しますが、日中の明るい環境下では「暗く」感じます。
手持ちの中古の「6E5」とピンは同じなので交換してみましたが、やはり暗い物しか
無く、落札者様の側で「新品購入&交換」を委ねたいと思います。
少しでも長く使えるように、オンオフスイッチを背面に設けました。
「PH」に切り替え、背面の「AUDIO IN」ジャックに「Bluetooth受信機」を挿して
iPhoneから好きな音楽を送って、音の質や大きさを確認している写真です。
「ハム」がとても小さく、雑音も殆ど無く音楽を楽しむことが出来ます。
ここまで、このラジオ(EA-750 3台目)を含めると、なんだかんだで50台近く
レストアしてきました。
ハードオフや他の中古販売店などで見る「何万円」もする「真空管ラジオ」とは違い
レストアしたとしても・・・自然に発生した「相場」で、落札に繋がる現実的な価格は
いまのところ「20000円以下」と感じています。
きっちり整備された物でも、数千円で出品されていらっしゃる方も居れば、全く手を
加えていないジャンクが「万」の値段が付いていたり・・価格決定は出品者の思うが
ままですのでソコが面白いのかも知れません。
私の場合、結構部品が壊れているものを掴んでしまうことが多く💦 、代わりとなる
部品を探して買ったり、交換用に新品の抵抗やコンデンサーを事前購入する必要が
あり、加えて「基本:送料無料」を貫いてきたので、正直「儲かりません💧」。
技術的に楽しくて、何十台も手掛けてきましたが少し疲れましたので、このラジオを
最後に「しばらくの間」レストアは停止します。
とはいえ、交換部品(真空管を含む)も何台分かありますので、供給可能なものも
ありますから、お困りの際は当方にお尋ねくださいませ。
ではぜひよろしくお願い致します。