真空管ラジオレストア記録

実際に手掛けたラジオレストアの記録簿です。

ナショナルCF-740(マグナスーパー)のレストア(2台目)

 このラジオの特徴は・・・MW(中波放送)のみの受信機です。

都市部の電波の強い地域には、電波の成分を余すことなく受信させるレンジがあり、

放送局の電波が弱めの地域では、ゲインを上げて選局しやすいように帯域を狭くして

聴けるレンジが備えられています。(Hi-Fi、LOCAL,DX)

戦後だいぶ経って、放送局側の電波の質も良くなり、「音楽」がたくさん乗るように

なり、多局の雑音に埋もれた放送を聞く楽しみから、段々と「リビングなどで、ゆった

りとした時間を【良い音のラジオ】で聴きたいと願う時代に入り、その欲求に応えた」

ラジオと言えます。「短波」が無いことはむしろ「高級」となったのです。

 

珍しく「高周波1段回路」が組み込まれていて、バリコンが3連になっています。

後代のトランジスターラジオの感度や選択度、そして雑音の少なさなど様々な性能で

比較されると、秀でている点は無くトランジスタラジオに軍配が上がります。

しかし、音質(良し悪しではなく)や雰囲気は真似を許しません!

ドンシャリサウンド」とは全く違う、まろやかで力強い、でも優しい・・

そんな音がするのです。

 

私が小学生だった頃(昭和30年代)、我が家にはナショナルの小型の真空管ラジオが

棚の上に有って、雑音混じりの「田園ソング」なる番組を聴いた記憶があります。

果たしてあのラジオは何という機種だったんだろう?

山形の山間部でしたので、どの放送局も雑音をかき分けて聴いていたのでしょう。

NHK、山形放送、そして微かに東北放送が聴こえていた気がします。

 

さて今回落札したラジオは、こんな姿のラジオです。

黒いルーバー上のパネルはプラスチック一体成型です。

「高周波1段回路」内蔵です。 そして音質やパワーで人気のあった「6BQ5」という

優れた真空管が標準装備です。

選択した機能毎に「インジケーターランプ」が点灯します。

写真は「Hi-Fi」レンジで聴いているところです。

マジックアイは「PHONO,Hi-Fi」を除くモードにて点灯します。(LOCAL,DX)

もちろんシャーシ背面の「マジックアイON-OFF」スイッチがOFFの時は、一切点灯

しません。(マジックアイの温存用)

 

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分解していくと経年劣化がすぐに分かります!

木目の化粧板は、当時流行った「木目薄皮シート」を貼り付けたものです。

何十年も経って、乾湿を繰り返した所為か「ボコボコ」と剥がれて膨らんだり、少し触

れただけで割れてこぼれ落ちたり・・・迂闊に扱えない困りものです。

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 上の写真の通り、他は意外と綺麗で・・・

 幸い今回の物は、ダイヤル窓の部分だけが「もっこり」膨らんでいるだけでした。

セメダインXと爪楊枝を使って、張り付くまでマスキングテープで押さえます。

実はテープを無造作に剥がすと・・ベリッ!と木目が剥がれることがあるので要注意!

 

 落札して届いたラジオの状態って、皆さんご存知でしょうか?

持ち主の保管の仕方や、使われていた環境に大きく依存しますが・・・

今回の品物は、こんな感じでした。(たいてい、これと似たりよったりです😅 )

 バリコン周りです。

どこに置くとこうなるんでしょうね。でもまだこのラジオは良い方ですよ。

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これはスイッチ周りです。

まるで火事場から拾ってきたようなホコリ、汚れです。

 これがキレイになっていくんです

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昔はおおらかな作りなんですねぇ。ここは電源スイッチです。

付近のコンデンサーもホコリまみれです。コンデンサは基本「交換」です!

 

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そして!ナショナル(松下)の電線の特徴なのですが・・・

経年劣化で電線が「溶化し、割れる」のです。

中身を見ずに「通電しました!」という方のレポを読むたびに「ヒヤヒヤ』します。

私は自分が整備し、配線チェックをするまでは決して電気は入れません。

これ完全にショートしています。 配線色すら不明です💦

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生きていても死んでいても「ブロック電解コンデンサー」は取り外して交換です。

耐圧不良を起こすと爆発する可能性がありますし、容量値も大きく狂うためです。

オイルコンデンサーもペーパーコンデンサーも無条件で捨てます。

ラジオが鳴らなくなったり異音が出る原因の一つがこれらの部品です。

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外せる物はすべて取り外します。

筐体は塗装します。 私は地肌を出して磨き上げる技術や根性も無いので、暗目の塗料

をスプレーして居ます。出来ればその時間を回路整備に用いたいからです。

木目の貼り付け板を接着して、マスキングテープで押さえている様子が分かりますね。

 

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出品者様が正直にコメントしていましたが「パネルに刻み文字があります」とのことで

出品写真では【傷】だけしか分かりませんでしたが、磨いて綺麗にしたらそれが良く分

かりました。

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どんな歴史があったのでしょう?(^^)

きっと関西か中国地方の人が使ってたんでしょうね。

刻んだ文字をよく見ると「NHK」「朝日」「中国」「RCC」・・などの文字が確かに

有りました! 子供が傷をつけたのでしょうか?

不思議と邪魔にはなりません(^^)

商品としてはマイナスになりますが、真空管ラジオの歴史と庶民の生活の産物・・

そう思うと何だか姿が浮かんできて微笑ましくなります。

それを理解してくださる方が落札して下さったらうれしいです。

実際のところ、使用してみると全然気にならない程度でした。

(パネル照明用豆電球が点くので、内側から照らされるので目立たないようです。)

 

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じつは文字の塗料が所々剥がれていました。

塗料だと直しが利かないので、水彩用絵の具を濃いめに溶いて竹串の尖った部分に付け

補修しました。 失敗したら水洗いしたり濡れたティッシュで吸い取ったりできます。

 

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内部は意外にも綺麗でした。

強張った電線を取り外し、耐圧の高い被覆で柔らかい電線と交換します。

古いコンデンサーは容量値が小さくても形が大きいので、交換するとスッキリとして

見た目でも分かりやすくなります。(トランス周辺に注目!)

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このラジオは「中波専用」なので、アンテナコイルの配線が分かりやすいため、手持ち

の「フェライト・バーアンテナ」に替えました。

高周波的にバリコンの近くがふさわしいので、バリコンの上に乗せちゃいました(^o^)

一番感度の良い位置をコイルを移動させて探します。

少し抜き気味が最高感度でした。(固定します。)

 

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 シャーシの内容を見ましょう!

チューブラ型(左右にリード線が出ているタイプ)のコンデンサーは、オイルコン、

ペーパーコン、そして電解コンなのですが、もう化学的変化の寿命が来ているので

全て取り外して最新の高耐圧のフィルムや電解に替えます。

シャーシが大きいので比較的中身がスッキリしています。

 

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豆電球の配線部分は、どなたも仰られる通り「松下のこの頃の電線は駄目!」の通り、

被覆が化学変化を起こし、溶着した後はボロボロに風化する格好になっています。

出品者が中身を見ずに「通電」してしまうと、ここの電線同士がショートしてFUSE

いとも簡単に飛ぶのです。FUSEを10Aのものに代えちゃうと・・・電源トランスが

溶断します! そうなると部品取りにすら使えなくなります。

こういう状態の姿を見ると・・・・ラジオ技術の心得が無いと・・・

「今度の燃えないごみの日、いつだっけ!?」となること請け合います(^o^)

 

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  今回取り外して捨てる方に回した部品たちです。

電解コンデンサーは手に入りにくいので、測定してから「再度用いる」方もおられます

が、いつ「爆発」するか分からない「ロシアンルーレットコンデンサー」なので、例外

無く取り外し、新しい平滑回路を基板に組みます。


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手で少し揉んだらこんなにバラバラになりました😓

これではショートするわけです。

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それから、このラジオの良くない点がありまして・・・

それは電源トランスの直ぐ側に、OUTPUTトランスが配置されている事です。

電源トランスの磁界の影響を受け、ハム音が出やすいのです。

ここの位置から切り離しましょう! 理想はシャーシから離した場所です。

その空いたスペースに電源平滑回路を乗せます。

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あれこれコンデンサー、抵抗器を交換したり配線を替えたりして景色が変わりました。

高圧の引き回しも他とは遠ざけて、最短で配線します。

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せっかく高周波段が付いているラジオなので、ソレノイドコイル(ボビン巻空芯)より

感度の良い【フェライト・バーアンテナ】を使用したいと思い、取り替えました。

設置場所は「Q:大雑把に言うと・・同調したときの鋭さ?」をなるべく落とさない

様にバリコンの近傍が好ましいので、上に乗せました。 同調回路の配線も本当は

細くしたり、シャーシから離したりして「せっかく拾った電波のエネルギーを逃さ

ない工夫が必要なのです。

バリコンの羽がぶつかることはありません(^^) 

 

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アウトプットトランスはシャーシから遠く離し、筐体にネジ止めです。

一番熱くなる6BQ5にだけ、銅板の放熱板を被せ、さらなる放熱と抜け防止のために

ハンダ付けした板をシャーシにネジ止めしました。

通電しながら中をチェックする時に、うっかりトランスの上のFUSEの100Vで感電

しないように「薄いカバー」を被せました。(両面テープ留め)

 バリコンのそばに2本真空管が立っている姿は、なかなかカッコいい!ものです。

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無事に音が出て、ラジオ、PHONO(AUDIO IN)の動作も確認できました。

音がきちんと出たからなのですが、細かな調整中に改善したい点が出てきました。

それは【ボリュームを絞っても音が結構な音量で残る】症状を改善することです。

多くの場合、その原因として・・

ボリューム自体が劣化していて、本来0Ωになるところが、数kΩ抵抗が残ってしま

 うために音が絞りきれない。これだけでなく、私が数台出会った場合は少し原因が

 異なり・・・

6AV6の内部にて漏れていたり・・・

配線の引き回しによりアーディオ成分が漏れてしまっている・・などです。

(6BQ6はゲインが大きいこともあり、小さな信号まで増幅してしまうのも一因)

 

今回はどうやら今回はのようで、古いボリュームを新品に代えたり、入力信号を

アースに落としても一向に音声が消えない・・そのような症状でした。

もしかしたらですが、昔はそれほど細かな仕様にこだわらず、もともと最初からボリュ

ームを絞っても音が出ているのは【当たり前】だったのかも知れません。

何故ならラジオを点ける時は・・・「ラジオを聴く時」だからです(^_^;)

 

 さぁ、どうしましょう?

私はここを他のラジオのレストア時に思い付いて上手く行った電気的な方法で解決しま

した!

それは・・6AV6からの出力を「減衰させる」事です。

実際のところ、ゲインがあり過ぎて、ほんの少しボリュームをひねっただけで、耳を

塞ぎたくなるほどの大きな音が出ますので、アンプには余裕があるのです。

でも注意がここでは必要です!

どんな注意でしょうか?

それは「ラジオ」で丁度良くても、「PH:AUDIO IN」に切り替えた際に、今度はボリ

ュームを幾ら回してもゲインが足りなくなる・・という罠です。

もともとラジオの信号よりも、PHONOに入ってくる信号の方が「小さい」のです。

つまり、ラジオの時だけ「音を減衰させ」て、「PH」の際には従来どおりの回路になる

様に工夫すれば良いわけです。

写真は、リレーを回路間近に配置し、照明用の6.3Vから作った直流電圧を加えてあとは

リレー内部の「ノーマルオープン」「ノーマルクローズ」の接点を上手く利用すれば

大丈夫です。

今回は100kΩと100kΩで分圧し、信号を計算上は半分に減らした状態が丁度

よい漏れレベルでした。

(無音に拘リ過ぎると今度は音の艶が削がれ、貧弱な音になります。)

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マジックアイ(6CD7)は今のところ実用的に点灯しています。

この真空管は私にはとても珍しく、入手は難しく思っています。

そこで、少しでも寿命を延ばせるように、不要な時には高圧を切断しておけるスイッチ

を背面に設けました。

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3.5Φステレオミニジャックを設けました。

隣のPHONO端子と並列に接続しています。

(内部で抵抗とコンデンサーを用い、音響機器の出力の保護とラジオとの絶縁処理済)

 

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筐体には目立った傷や割れ、凹みはありません。

とは言え年代物ですので劣化はあります。ダークブラウン塗装済み。)

 

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パネル面も割れや大きな傷、変色などはありません。(前述の目印傷は除く)

 

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強い電波にて「同調」した時の点灯状態です。かなり明るいと言えます。

(周りを暗くしなくても容易に確認できます。)

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裏ブタはオリジナルです。

ただし、今回のマジックアイON-OFFスイッチ、ジャック追加などにより操作性をUP

させるために切り欠きを大きくしました。

蓋のはめ込み部分の樹脂が腐っていたので撤去し、細い木材を接着、塗装し新設。

一旦下の溝に嵌めてから、上のつまみ3つにて固定します。

 

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ハム音が小さく、音の伸びが良く低音もそこそこ出る「真空管ラジオ」らしい温かな

音が出ています。

ぜひいかがでしょうか?

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 なお、このラジオと手持ちの整備済みの【ナショナルEA-750】を手放した後は、

しばらくの間、ラジオのレストア、出品は行わない予定です。

この機会にぜひどうぞ!\(^o^)/