真空管ラジオレストア記録

実際に手掛けたラジオレストアの記録簿です。

日立S-541レストア記録

 ぱっと見「これってトランジスターラジオ?」って思ってしまうほど「小さく」て

「まとまって」います。

小さくても立派な5球スーパーラジオです。

 届いた時点で既に綺麗な状態です。(オーナーさんが掃除して出荷してくれました。)

 

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MW(中波)。SW(短波)。そしてPHONOの3モード切替型真空管ラジオなのです。

回路方式は「トランスレス」です。 このラジオの販売時期が昭和38年近くなので

商用電源の質も良くなり、電圧変動も安定したのでしょう。「オートトランス」による

「昇圧」も不要なために、純粋な?トランスレスラジオになっています。

構成は「12BE6」「12BA6」「12AV6」「30A5」「35W4」の真空管標準仕様です。

パネルのツマミ内容はこうなっています。

 

パネル左から右へ・・

  【電源スイッチとボリューム】     【バンド切り替えスイッチ】

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右端のつまみ 【同調:チューニング】

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このラジオは本当に珍しく、配線は電線ではなく「プリント基板(片面)」方式を採用

しています。

 

【レストア前の写真】

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トランスレスのプラスチックケース型ラジオの場合、全てをパネルにネジ止めする方式

が多く、一番面倒な「ダイヤル針」とダイヤル糸のセッティングが懸念材料でしたが、

これも基板ユニット内で全て完結しており、全く脱着に不便さを感じませんでした。

ONKYO OS-195の場合はシャーシとパネルを切り離す際にダイヤル糸外しが必要)

 

オーナーさんが出荷する前に真空管を磨いてくださったり、ホコリを払ってくれたその

おかげで軽く再清掃するだけできれいになりました。 結構幅の広いプリントパターン

を設けていて、コーティングもされているので1ヶ所も銅箔が侵されている場所は無く

検査しやすい構造でした。

 

とはいえ今から60年も前の物なので、無条件で電解コンデンサー」「オイル・紙」

コンデンサは新品の部品に交換しました。

抵抗はテスターで一本づつ測定し、大幅に規定値とズレている物は小型の同熱消費の

新品抵抗器と交換しました。

またボリュームは残念ながら抵抗値変化が均一でなく、このまま動作させると回して

居る途中で「爆音」になったり、極度に小さくなる可能性があるので思い切って交換!

これだけの古い部品を取り外して廃棄しました。

「ブロックコンデンサー」は試験用に使用するので確保しました(^o^)。

 

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また整流した後の平滑回路がハム音を拾いやすく、電気的に良くない場所に設けられて

いることと、平滑回路段数が少ないので新たな場所に小さな基板を追加し、1段から

3段へとCR回路を追加しました。

トランスレスラジオは配線一つで「ハム」が大きく出たり、小さくなったりしますので

気になる部分はパターンをカットし、電線にて理想的な場所にはんだ付けしました。

(12AV6の3番ピンと4番ピンはハム低下のために入れ替えました。)

 

写真右側の基板が「新しい平滑回路』です。

最終的には構造上この場所では無理なので、検査終了後には分離してプラ筐体の空き

スペースに取り付けました。

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 プレーヤー入力用の端子は今日では使いづらいので、取り外して新たにアクリル板を

作って【3.5Φステレオミニジャック】を取り付けました。

また元々は付いていない【TONE回路】を追加しました。(3段階)

 

写真はジャックに「Bloutooth」受信機を挿して「PHONO」に切り替えて試験中の様子

です。

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ジャックの金属部分を電気的に切り離し、トランスレスラジオ特有の商用電源直接続

ゆえの感電する危険を回避していますのでご安心下さい。

 

 プラスチックケース(白色)は、かなり色が褪せて変色していたので、表面をサンド

ペーパーで磨き「アイボリー色」で塗装しています。

 

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 プラケース特有の「裏ブタハメコミ時のひび割れ」が元々発生していました。

裏側をゴム系の接着剤で補強しています。

裏ブタの開閉時には「優しく」行って頂けたら幸いです。

(メーカー問わず、弾性利用の嵌め込み式プラケースにはヒビ割れ多し。)

 

当時の可塑性のプラスチックは、現在のような弾力が有って強い素材がそんなに無く、

またこのラジオが半世紀以上も使われることなど「想定外」だったので、弱い部分の

肉厚化、割れにくい構造設計などにさほど神経を使わなかったのかも知れません。

透明なパネルカバーなどを多用する他の真空管ラジオが、今は割れたり、くすんだり、

何らかの液体で化学変化して溶けているものがあったり・・・当時はより透明で固く

化学変化もしにくい「アクリル板」などは高価で、量産には向かなかったのでしょう。

もし昔からアクリルが使われていたら、もっと綺麗な状態へと復元できるラジオが

ふんだんに出品されていたでしょうね。

 

ハム音を極力小さくしたいため、回路内のアースポイントを変更したり真空管のピンの

接続変更をしたおかげで、耳をそばに近づけてやっと『ハム音?』を確認できるほどの

小さな状態にすることが出来ました。

 

さすが昔からの一流メーカーです!

見た目「小さなスピーカー」なので、どうせ大した音は出ないだろう!?と舐めてまし

た。 とてもクリヤーで迫力ある音が出ています!

コンデンサーは新しいものに変わりました。

また動作させていると真空管が起因と思われるハムとは異質の雑音が確認されたので、

手持ちの中古ですが同じ型番の物と差し替えてあります。

それでも新品時の性能や音質は出ていないかも知れませんが、まだまだ現役でラジオを

受信したり、AUDIO機器からの音楽などを入力してこのラジオの真空管を通した音を

楽しむことが出来そうです。

 

内部的なことですが、このラジオの「熱発生銀座?」とも言える「30A5」と「35W4」

が接近してる周辺はかなりの熱が出ます。

メーカーはもちろん承知しているので、金属板を裏ブタに設けてプラスチックの筐体が

熱で膨らんだり変形することを防止しています。

「気休め?」かも知れませんが、少しでも熱発散が進むように「銅板放熱器」を自作し

嵌めてあります。

12AV6の銅板は元々メーカーの仕様には付いていない「シールド効果」ゆえの物です。

本来は鉄製の物が用いられているのですが、放熱兼ねて銅板にしました。

 

 なお、初めて出会った点があります!

それはIFT(中間周波トランス)−1に使用されている部品に「金属ケース:アルミ」が

被されていないのです! 最初は『これで大丈夫なの?外れちゃったのかな?』と思い

ましたが動作させても何の問題もなく、触っても受信の変化もなく安定していました。

決して「入るスペースが無いのでやむなく裸にした・・・」わけでは無さそうです。

入念な回路検討や試験をした上での結果なのでしょうね。

 

不慣れなのですが実際に音出しの様子を録画してみました。

動画編集ソフトが無いし、技術も無いので「撮りっぱなし」ですので、最後辺りで

カメラがアッチコッチ暴れますが(^_^;) ご参考まで。

 

竹内まりやさんの「駅」、ラジオ放送が聞こえます。↓ ↓

 

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