日立フローラ「S-563」レストア記録
販売当時(昭和30年代)とてもデラックスな仕様のラジオです。
パネルを賑やかにするために「様々な切替項目」のインジケーターランプを点灯させて
います。もちろん「Hi-Fi」仕様です。
スピーカーはなんと!3個も付いています。
当時としては贅沢な作りになっていて、「PU:レコードプレーヤー」入力だけでなく
「FM:FMチューナー」からの信号入力の端子まで付いています。
(※パネルに【FM】と書いてあっても、FMを受信できる回路は付いていません。)
【入手時の状態】
●とにかくラジオの内外が汚れていて、アルミパネルに関しては「焼き付いた汚れ」に
なっていて、あらゆる洗剤を使っても全く汚れは取れず、科学的な薬品で落とすには
素人にはとても危険なので・・・・・
「紙やすり」を使って「疑似的ヘアーライン」を施して、真っ茶色な汚れを削ります。
ツマミが有った場所だけアルミパネルの元々の色を想像させてくれます。
クレンザー、中性洗剤には全く反応しません。
触るとガサガサの表面、油汚れなのでしょうか?
化学の専門家でしたら、こういう汚れには「○○」を使えば落ちる!とすぐに分かるの
かも知れませんが、素人の私には「塩素」や「●●酸」などの薬品を使う知識も技術も
ありません(^_^;)
そこで選んだ方法は・・・紙やすりで擦って落とし「ヘアーライン」ぽく仕上げる作戦
だった訳です。ただせっかくの文字が消えないか不安です💦
●シャーシの汚れもまたパネル同様でした。極力削ってみましょう。私の場合ですが
「動作優先!」なので、シャーシを綺麗にするために部品全部一回取り外す・・・
そういう芸当は出来ません(^_^;) 薬品で処理したらきっと見違えるんでしょうね。
簡単には落ちそうにない汚れが「層」になっています💦
普通のラジオの倍の広さのシャーシですので、掃除も大変そう!💦
●何故かヒューズが2本!😱💦 ?
しかも真空管ラジオにはありえない10Aのヒューズが付いていました!😱💦
せいぜい0.5Aで充分なのに・・・・
嫌な予感しかしません💦
きっと一度FUSUは「切れた」のでしょう。もちろん内部のどこかで異常が発生して。
ネットの説明や写真では「通電試験」されていて、電球が明るく点灯していました。
試しに私としては例外なことですが、レストア前に通電してみようとしました・・が、
全く何も、点灯もせず音も出ません。
本格的に調査したところ・・・電源トランスの「一次側(100V)」の線がトランス
内部で「断線」していました。 さらに・・なぜ今まで大丈夫だったのか不思議なこと
ですが、6.3Vの電線がスイッチの金具部分と接触し(ショート)していました。
メーカーが配線する時に「絡げ(からげ)配線」と言って、はんだ付けする端子に
電線を「巻き付けて取れにくいようにする」処理が為され「端子が太った」状態になっ
ていたのです。元々「端子」と金具部分の隙間が小さいところに、太った端子が接近し
ていたので、僅かなスイッチ操作時の動きで接触したのでしょう。
なので、きっと「ヒューズがおかしいのかな?」と思って、大容量のヒューズを挿れて
たまたま先程の端子がショートしていない状態の時に「通電試験」をし、写真が撮れた
のでしょう。 そして何らかの弾みに「ショート」し、定格のFUSEならば飛んで回路が
守られたはずですが・・・・
●その所為で・・電源トランスの方が耐えきれず細い線が「溶けて断線」したのです。
よくヤフオク出品ラジオで「通電しました。」とのコメントが書かれたいますが、
整備されていないラジオ(他の機器も同様に)の通電はやめて欲しい!のです。
それまで生きていた部品が、その行為で死んでしまうことの方が多いのです。
相当するトランスとして部品取りして持っていたナショナルAH-610の電源トランスを
移植します。幸い取り付ける穴も外寸もほとんど同じでした。
●本体も大分傷んでますねぇ(^_^;)
当時は「合板」が頻繁に多用されていましたので、時間が経つと共に湿気と乾燥が
繰り返されて「剥がれる」状態がこの筐体にも起きていました。
側板も底板も経年劣化で「綺麗に?剥がれて」いました(^_^;)
製造時の糊の存在は全くありませんでしたので、修理は簡単でした。
セメダインX を薄く伸ばして、固まるまでマスキングテープで押さえておきましょう。
横の板の表面や、内部のベニア板も「綺麗に?剥がれて」いましたので接着します。
●スピーカーを鳴らすための「アウトプットトランス」も断線していました。
真ん中の高音用スピーカーも断線しています(導通がありません💦 )
もう「満身創痍ラジオ」ですね💧
(メーカー問わず、巻線数が多く、しかも細い電線を使うトランスは当時の材料の
劣性が原因で溶断による断線が多いです。)
最新の技術と材料で作られた「アウトプットトランス:東栄変成器製」を使います。
●電解コンデンサー、オイルコンデンサー、ペーパーコンデンサーなどいずれも劣化し
ていました。(幸い爆発品はありませんでした。)
●このラジオにはロータリースイッチが3個も使用されています。
どうやら接点が裸でむき出しのため、シャーシやパネル同様に何かが反応し付いて
しまった接触不良を引き起こす酸化や硫化した被膜が出来ていました。
スイッチセルを取り外し、接点専用の「汚れ落とし溶剤」を塗って、しばらくしたら
拭き取って水洗いと乾燥を経れば・・・・
驚くほど綺麗になります。
もちろんこの状態で接点の接触状態を「導通試験」で確認します。
構造は簡単ですが、均一に接触することはとても繊細で少し歪んだだけで不良の接点が
出てきます。
合格したら今度はそこに「導通性オイル」を塗って、再度被膜ができるのを遅らせる様
にします。
この作業を怠ると、しばらくは正常に動作するかも知れませんが、急に感度が落ちたり
切り替える際に大きなノイズが出たり、最悪時には何も音が出なくなる症状まで。
(一度配線を外すので、きちんと記録やスケッチをし外す勇気が必要だけどね(^^))
やっと元のラジオの顔が見えてきました💦
私はスピーカーサランネットが「金ピカ」や「銀ピカ」が大嫌いなので、強度のために
剥がさずに温存しますが、その上から「黒いサランネット」を貼って、シックに仕上げ
ました。
外装は可能な限り元の雰囲気を大事にし、ダークブラウン塗装、内枠の白塗装、
アルミパネルのヘアライン処理(手作業)後に「クリヤー塗塗装」をしました。
【電気的なレストア概略】
●電源トランスの交換(元のトランスが断線していたため)
●アウトプットトランスの交換(同上)
●外部入力端子及びリモート端子、コンセントなど全て撤去した。
●電球の交換(3個断線していたため)
●ペーパーコン、オイルコン、電解コンの撤去と交換(寿命のため)
●新しい電解コンデンサーと新しい抵抗による平滑回路増設(基板)
●劣化している電線の交換。
●ロータリースイッチ全ての接点及び全体の掃除。(絶縁、耐圧アップ)
●マジックアイ切り替えスイッチ(白い押し釦)の接点掃除)
●増幅管(6AR5)を、高耐圧高電流の「6AQ5」に交換した。(差し替え可)
●ノイズ軽減化のためバリコン、バーアンテナなどのアース増設。
●向かって左のスピーカーも断線のため、ナショナルの中古品と交換。
真ん中のスピーカーも断線しているので交換。(日立、三菱、ナショナルが混在(^^))
●ヒューズを本来の容量(0.5A)に戻した。
●なるべく長時間稼働できるように、増幅管と整流管に銅板による放熱板設置。
●電源コードを新品と交換。
【レストア後の内部写真】
【動作させてからの感想】
○パネル上の切替機能は全て正常動作。(TONE、BAND、SELECTなど)
○聞きやすい音が出ています。
(口径が程々の大きさのスピーカーなので、重低音などは期待できませんが
部屋いっぱいに広がる迫力ある音が出ています。)
○ハムは殆ど聞こえません。 我が家の周囲の電線からのノイズが多く
ラジオ自体のノイズなのか外来ノイズなのか分かりませんでしたが、「PH」
に切り替えればラジオは遮断されるので、6AV6以降の回路ではノイズは全く生じて
いないことが確認できます。
○アンテナ線をつなぐことにより、「感度アップ」すると同時に「外来雑音レベル」も
上昇し聞きにくい時があります。その様な時に外部アンテナからの信号を切り離し、
内蔵アンテナだけで受信するレンジが【FA】です。
(Fフェライト・Aアンテナの略)
当然感度は下がりますが、見事に雑音レベルが下る場合があります。
○マジックアイはだいぶ薄くなっていますが、まだ使用可能です。
EYEの開閉は動作確認できていますので、球だけ新しい物に替えれば大丈夫です。
(ソケットカバーは元々付いていませんでした。)
電気的な寿命が響きやすい「科学的コンデンサー」は全て交換済みです。
真空管は一部を除き全て「もともと付いていた管」を使っています。
将来「真空管」は、現在生産されていないために高価になる可能性があります。
予備品として、現在はまだヤフオクや他のオークションサイトでも出品されていますの
で1台分購入されることをおすすめします。
スピーカーも使用されている「紙」が劣化すると、悪音になったり音が出なくなる
可能性もあります。
(同じ性能、サイズ、取付寸法などを求めてもまず手に入れるのは困難です💦)
最悪は加工することを承知の上で、●ードオフなどで売っている安いスピーカーボック
すから外して使えます。)
真空管ラジオは「車の旧車」と似ていて、整備さえすれば良く動いてくれます。
放っていれば「朽ちてゆく」だけです。
部品ももうありません。飾っておくだけなら手を入れる必要は少なくて済みます。
でも、せっかくなので「活きて動いて欲しい!」と思いますよね。
もちろん性能は、今の科学技術で作られた方が良いに決まっています!
「性能が全て」ではないんですよね(^_-)-☆
現在、廃れたはずの「レコード盤」がまた脚光を浴びているのはなぜなのでしょう?
一時は「レストアするのはやめようかなぁ・・」と思ったこのラジオ。
でも思い直して、各部に神経を使って可能な限り整備しココまで直りました!
新しい部品を購入したり、前もって購入しておいた予備部品のおかげです。
ジャンク品よりは「高い価格設定」してありますが、手間賃などは計算せずに次の
ラジオの修理に必要な部品代などと、いくらかの「ご褒美」だけ含ませています。
大型ラジオですので「運送費」は2,000円内外を「希望価格」に含めていることも
ご考慮の上でご落札頂けましたら幸いです。
以上 出品者より。