真空管ラジオレストア記録

実際に手掛けたラジオレストアの記録簿です。

ナショナル【DM-650】のレストア

 この機種が出品されたのを見るのは初めてです。

スピーカーが左右に分かれるデザインのラジオが多い中、片側に寄せているデザインは

なかなかの「機能美」があります。

 

◎ラジオの概要

●使用真空管・・12BE6  12BA6   12AV6  30A5  19A53  12ZE8

●受信可能バンド:中波、短波

●入力端子・・・PH(PHONO) FM(外部FM受信機からの入力端子)

 

 「ジャンク品」としての出品を落札したので、最悪は「部品取り?」と覚悟。

このラジオ本体にはどこにも「型番」が記されていません。

出品者も型番ではなく「2スピーカー・・」とだけタイトルにしていました。

 

【外観】

 見た目には汚れや小キズはあるものの、割れも無く欠品も無く良さそうです(^^)

 

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レストアする上で大事なポイントの一つは・・・

ラジオ全体が「分解しやすい」事です。

フロントにネジの頭が見えるということは・・・バラしやすそうです。

 

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【電気関係】 

ジャンクラジオの中で「賭け」となる点が幾つかあります。

①スピーカーアウトプットトランスに断線がないか?(断線しているものが多い)

電解コンデンサーに液漏れやパンクがないかどうか?(ほとんど使用不可状態)

③回路図が残っているかどうか?  などはとても重要です。

この頃のラジオの回路はほとんど基本的に同じですが、レストアとなると配線を一回

バラしてやり直す可能性が高いため、これは重要なポイントです。

幸い筐体内部に明瞭な図面が貼られていました。(ほっ🎵)

内部の様子もそれほで汚れては無さそうです。

 

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 このラジオは当時「高級ラジオ」の部類だったと想像できます。

というのは・・・「オートトランス方式」だからです。

昭和初期の時代は、現在のようにAC100Vの商用電源電圧が安定しておらず、電気を

同時にたくさんの人が使うと電圧が下がり・・80Vにも満たなくなり、不安定な動作

をしたそうです。日中と夜間で電圧が激変した・・とも聞きました。

皆さんは「スライダック」という商品をご存知でしょうか?

AC100Vに差し込みながらも、自らはそれよりも高い130V付近まで上げたり、逆に

0Vまで下げることが出来る「単巻トランス」の一種です。

電圧可変が出来るので、照明の可変、モーターなどの回転可変、何よりも電気機器の

電源変動耐久試験などに用いられています。

原理は同じで、当時これをラジオに採用したのは繰り返しの説明になりますが、少しで

も「高い電圧を維持し動作を安定化」させることでした。

 

 残念ながら今回のラジオの電線は内部で切れていて、電源は入りませんでした。💧

そこで思い切って電源方式を変更し、加えて「感電防止」も兼ねての・・・

【絶縁トランス使用によるトランスレスラジオ】にしました。

これでラジオの回路は商用電源と切り離せるので、金属部を触っても「感電する」危険

から逃れることが出来ます。

 

 パイロットランプは、オートトランスの電圧取り出しタップと6.3Vの差を持つ

タップから取り出した6.3Vを用いていたようなので、ここは6.3Vトランス(HT-605)を

追加して電球も絶縁可能にしました。

 

【手を加える必要のある個所】

抵抗が焼けています。ペーパーコンデンサーはもう寿命で、容量も異なり、リークも

多いはずです。正常かどうかに関係なく交換です。(高耐圧フィルムコンデンサへ)

オイルコンデンサーや電解コンデンサーなどの「化学変化型コンデンサー)は全て

交換です。特に高電圧が常時加わる「ブロック型電解コンデンサー」は有無を言わさず

交換です。(いつパンクや容量抜けでラジオ「正常動作不可」状態になるか不安な為)

 電源平滑回路を別の場所に基板に組んで取り付けましょう!

平滑用の抵抗もコンデンサーも新品に代えます。

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そして多くの方が手を食わえずに「ラジオが聞こえればオーケー!」としがちな、

切り替えスイッチ(ロータリースイッチ)の接点もこの際、綺麗にしておきます。

分解したスイッチの「ウェハ」です。

何もしない状態では、接点は「真っ黒」に汚れていたり酸化しています。

基板を傷めない専用「化学薬品」を使って、軽く汚れを拭き取った写真です。

不織布がところどころ黒いのは、拭き取った【汚れ】です。

やっと金属部分が見えてきました。

なお、スイッチというのは【面】ではなく【点】で接触しているので、ある特定の場所

だけが擦れて剥き出しになるので、動作は正常に思えてしまうのですが・・・・

切り替えないまま何十年もたったラジオの接点は「接触不良」となり、ラジオとして

動作しなくなった物が多数見かけます。

 

下敷きになってるスケッチは、分解してしまうと「どれがどこに有ったの??」状態に

なり復元するのに回路図とにらめっこしながら何時間も掛かる罠に陥ります(^_^;)

栗のイガのように見える端子の基板と、中心部で回転する「電極部」はさらにバラバラ

になるので、もし外れてしまったら裏だったか表だったか「???」になるので、

「割り印」のように、分解する前にシャフトと基板の両方に「ペイント」しておくこと

をオススメします。

そして配線復帰させる時に分かりやすいように「絵」としての回路図を残すのです。

薬品である程度汚れを落としたら、台所に持って行き「中性洗剤:キッチン用洗剤」と

ブラシでゴシゴシ水洗いします。

その後、ペーパーで水を拭き取り「ドライヤー」で乾かします。

基板そのものには防水皮膜塗装処理されているので、よほど劣化していない限り、すぐ

に水を弾くので、ほんの数十秒で乾きます。

組み上げる前に、取り外した状態での写真を撮っておき、組み上げる際の資料とします

。というのは・・組む前に接触確認が必要だからです。導通試験が出来るテスターや

ブザーチェッカー(導通すると鳴る仕組みのグッズ)で各端子間の接触状態を確認しま

す。目視で接触しているように見えても、導通試験機で試すと「接触していない!」

物があるからです。治すにはラジオペンチで少しづつ接触端子を調整します。

(組み込んでしまうと、道具が何も入らない状態になるので直せなくなります。)

中波と短波が受信できるラジオは、切り替えるべき配線が多い為、このスイッチの

メンテを怠ると、受信できなかったり、ブーー!と言うだけでラジオが聞けない厄介な

動作をしますので、「掃除は必須アイテム」と思ったほうが良さそうです。

 

ここまで手を入れて確認していますのでご安心下さい。

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【細かな改善点】

◎モード切替ランプが設けられながらもパネルには印刷も彫刻もなかったので、「MW」「PH」「SW]シールを追加。

◎「PH」モードにもインジケーターとして緑色LEDをパネルに追加。

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◎「PU」(プレーヤー入力は残してありますが、3.5φステレオミニジャック入力用)

 モードには表示灯が無かったので「緑色LED」をパネル内に追加した。

◎マジックアイ(12BE8)の高圧電源オンオフスイッチを設けた。

 *トランスレスラジオは、各真空管の「ヒーター」を直列接続しないとラジオが成り

立たないために常時ヒーター電源が加わるため、高圧のみの入り切りとなります。

大分使ったようで、動作はしておりますがかなり暗くなっています。

 

*下の写真は室内照明を落として撮っています。

 

【非同調時】

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【同調時】

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新品と交換できるように回路動作は確認済みです。

当方で交換してしまうと価格がアップしてしまうため動作確認のみとしました。

真空管回路内の信号減衰回路採用。

 これは、6AV6から30A5に送る信号レベルが大きすぎ、ボリュームをほんの少し回し

 ただけで大音量に生っていたため、抵抗にて信号を何割か減衰。

◎ヒューズソケットが老朽化し、ヒューズを抑え込むバネ力が無くなっていたため

 新品のソケットに交換し、トランス端子との絶縁距離を得るためにプラ壁を設置。

◎ボリュームのガサつき、急激な音量変化があり新品と交換済み。

 シャフトのみ再利用し、ジョイント金具にてしっかりと軸固定。

 

【気になっている点を思い切って改善】

◎問題無さそうに元気に音を出している「アウトプットトランス」ですが・・・・

 電源を入れた直後や数十分経った頃に、不定期に音の中に「チリ!チリ!」「プツ」

 と放電性の雑音が交じるのです。 原因としては「スイッチなどの電極間放電」や、

 真空管の劣化などなどすぐには分かりません💧

 そこで、真空管を入れ替えては様子を聴きましたが、いまいちはっきりしません。

 過去の修理のノウハウとして、こういう場合の原因は「アウトプットトランス」が

 多くて、交換するとピタリと止まる!今まで数台のラジオがそうでした。

 せっかく音が出ているのに交換するのはちょっと勿体無いのですが、そうも言ってお 

 られません。 東栄変成器の新品アウトプットトランスと交換です。

 チリチリ音はピタリと止まりました。

 (アウトプットトランスは、電源トランスと異なり「電圧比」ではなく

     「インピーダンス比」なので、巻数が半端ないのです。断線したらまず修理は不可能

  です。実際に分解してみたら・・・一次側は髪の毛みたいな電線が巻いてありまし

  た。当時は動線の純度が低く、長期的な使用により不純物の劣化により「断線」

  することが多いようです。)

 

古いトランスを取り外し、外した物は試験用に使いましょう。

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「トランスレスラジオ」なのに「トランス」がいっぱい乗ってます(笑)

でもじつは一切「無駄」は無いのです。

 

最初大きかった「ハム音」は、部品交換や配線変更、平滑回路の追加によってかなり

軽減されました。 なかなかハム音が無音になることはメーカーの配置の設計や使用

スピーカーの周波数特性やらが関係しているので、これ以上は弄らないで起きます。

 

程々の大きさ、落ち着いた雰囲気、暖かく明るい照明、落ち着いた音・・・

真空管ラジオは本当に良いなぁ・・そう思わせてくれる機種でした。