三菱【5P-850】(2台目)のレストア
筐体が一体成型プラスチックのラジオは、その殆どが「トランスレスラジオ」です。
このラジオは、ポータブルラジオとして室内の様々な場所に移動させて聴かれたもの
なのか? はたまた一箇所に置いたまま家族が全員で聴いたものなのか?
いずれにしても大分愛された様子が見受けられます。
ヤフオクでは写真だけでしか判断することが出来ませんが、筐体は比較的きれいな
表面でしたし、パネルの傷も目立ったものがないため落札しました。
実はこのラジオは過去に直した経験があり、松下とは異なり部品配置も、使用されて
いる部品や配線の質が良く、期待できるラジオです。
ツマミもオリジナルのままの物です。(ただし1個欠品でした。)
パネル面の透明カバーも綺麗ですし、スピーカー部分の細いリブも一本の「折れ」も
ありません。
ただ写真では見破れなかった点ですが、化粧用の金属ライン(エスカッション)、
これがどうやら持主さんが一回外したようで、その際に曲げてしまったのでしょうか?
それを必死に元に戻そうと曲げ直したものの、元には戻らずに少し波打っている部分が
あります。 年季物ですので大目に見て下さいませ(^o^)
(最終的にエスカッションは【つや消しブラック】塗装しました。)
(ロッドアンテナは私個人用トランジスタラジオで、聞きながら作業してました(^_^;))
使用されていた場所が良かったのか、裏蓋の変色や変質がほとんど無く、機種名も
メーカー名もスッキリと読み取れます。
良くありがちな「割れや欠け」が全くありません。
裏蓋の右上のツマミは、小型スピーカー使用のラジオにありがちな「シャリシャリ」
した音質を、少しでも変えることが出来るように、当時高級ラジオには必ず付いていた
三段階の音質変更が出来る回路を追加しました。
ラジオを掛けながら変化を確かめられます。
このラジオに手をかけ始めた際に驚いた点がコレ!
ヒューズホルダーに何が入っていますでしょうか?
「何と!!半田が巻き付けて」ありました!😱
回路内に異常があるからこそヒューズが飛ぶのに、何を思っての事なのかとても危険な
事が実際に行われていました!
きっとどれかの真空管のヒーターが断線しているに違いない!?
そう思って調べたところ・・・電源球の【35W4】が見事に切れていました。
予想は悪い方に的中しました!
ヤフオクには「通電出来ました。」とよく書かれていますが・・・
ヒューズがハンダ線だったり、10Aという大電流用のヒューズが入っている物もあり
通電さえしなかったら壊れなくて済む「電源トランス」「アウトプットトランス」など
の細い電線がいとも簡単に「断線」しているラジオが結構あるのです。
なので、壊れている可能性のあるラジオは、むやみに「一切電源を加えない!」で、
そのままの状態で出品してほしいと願うばかりです。
古い電解、ペーパー、オイルコンデンサーを全て取り外し、新品の高耐圧コンデンサー
に交換しました。ブロック型電解コンデンサーも外し、新しい部品で基板に取り付け
ました。
きれいな回路図が残っていました。
この回路図のままですと、電源回路の平滑コンデンサーが少なくてハム音が出やすく
なるので、古いブロックコンデンサーを取り外し、抵抗と電解コンデンサーのフィル
ター回路段数を増やし、ハム音がとにかく小さくなるように試験しました。
変更回路部分はきちんと修正し、最新版の回路図を添付いたします。
ボリュームは、使用時間が多かったためか(大事に長く使われたからこそ!)ガリが
出る以前に、回してる途中で抵抗値が無限大になる(つまりカーボンが剥げている)
部分があり、このままでは使用不可の様子でした。
新品のボリュームと交換し、ローレットつまみが用いられているので、軸の部分だけ
切り落として「ジョイント金具」を使って継ぎ足しました。
パネルに直接取り付けるタイプのシャーシは、部品の高さ制限があるためになかなか
神経を使います💦 シャフトも短い場合が多くジョイント金具も小型の物が役に立ち
ます。(私は西川部品製の物を門田無線経由でネット購入しています。)
いろいろな箇所をチェックしてから、初めて電気を入れます。
ラジオを手にしてから整備終了までは決して通電しません。
何が潜んでいるかわからないからです。(知っている人ほど慎重なのです!)
無事に音が出ました!
ラジオはもちろんのこと、AUDIO IN ジャックにBluetooth受信機をつなぎ、iPhone
から音楽を送って、音の歪やハム音の確認をします。 大丈夫でした!
当時のものですので、特別音が良いとか静寂である・・・ということはありませんが、
真空管らしい音質と音量が十分得られています。
何十年振りかでスピーカーから音が出たに違いありません。
ところが!!
一応受信音が鳴るようになった時に別の問題が発生しました。
鳴っている状態で切り替えスイッチのツマミに触ると、音が出たり出なかったりと不安
定症状が発生したのです💦
あれこれ触ってチェックしたら・・・・
ロータリースイッチの接点酸化、汚れのこびりつき、硬い単線の電線が使用されている
ために常に力が電極に加わり、その電極が歪んでしまい「接触不良」が発生していまし
た。(仮に0.001mm浮いたとしてもすぐに接触不良が発生します。)
この写真は取り外して、接点酸化皮膜除去薬品を使う前の接点の様子です。
真っ黒に見えるものは「長年酸化、硫化して出来た汚れ膜」です。
むやみに擦ったり、接点復活剤を吹き付けると基板の中に滲み込んでしまい、基板の
耐圧が下がったり、絶縁性が下がり「リーク」が発生する恐れがあるので、接点だけを
薬品で綺麗にし、その後に中性洗剤とブラジで汚れを落とします。
水洗いしても基板には絶縁剤が塗布されているので、水が染み込むことは少なくて
ドライヤーだけで良く乾きます。
薬品洗浄と水洗いだけでこんなに綺麗になります!
組み付ける前に「擦り減ったことによる接触不良」が無いかどうか、ブザーチェックで
導通試験を行います。
残念ながら接点基板が少し歪んでいるせいか、接触が甘い箇所がありました。
対策として・・・接触面に薄くハンダを乗せ、見かけ板厚を増します。
ハンダは軟らかいので、無理なく接触してくれます。
電極に傷を付けずに綺麗にするには、やはりケミカルに頼る必要があります。
さて、このラジオには「音質調整回路:TONE」がありません。
当時は「高級ラジオ:Hi-Fi」にしか音質調整回路は付いていない物が普通でした。
でも実は簡単な部品の追加で、三段階変えられます。
乾いた「シャリシャリ音」で聞きたい時もあれば、少しマイルドに抑えられた音が聞
来たい時もあるので、スイッチを切り替えて楽しむことが出来ます。
リア蓋に取り付けました。
試験中、日中でしたが「短波放送」バンドの感度がとても良く、外に張った6m程の
電線に繋いだら「韓国」「北朝鮮」「中国」の放送局の幾つかが明瞭に受信できま
した。
専用設計のアンテナコイルが優秀なのかも知れません。
「ポータブルラジオ」というジャンルは、木製の大型ラジオ(高級Hi-Fiラジオ)とは異
なり、「音質」というよりも・・置き場所を選ばずに気ままに受信し聴くことが出来、
八百屋さんの奥の棚とか、魚屋さんの水の掛からない棚の上とか、果てはビニールを
掛けて油汚れを避けながら掛けていた街の中華やさん(ラーメン屋さん)などなど、
商売をされている人が大きく音を出して聴いていた・・・庶民のラジオでした。
「ダイヤトーン」という後代にはブランドとなった三菱の定評あるスピーカーが二個
付いています。コーン紙やエッジの劣化はありません。
ステレオではありませんが、聞こえる範囲(角度)が広くてなかなか迫力あります。
ハム音は回路整備や平滑部品の追加により「かなり小さい」レベルにしました。
少し面白い実験をしました(^^)
かつて電気の仕事をしていた時に「音の消しゴム効果」といって、2個のスピーカーの
接続を入れ替えて「音の位相」をひっくり返してみたのです。
結果は・・・「低音」がうんと小さくなり、音量も激減しました(^^)
もちろん実験した後は、元に戻して迫力ある音になりました。
(2個付くラジオをレストアする際の参考まで(^o^)v)